「わたしを離さないで」「日の名残り」再読

カズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞受賞に、なんだか妙に興奮してる私。

以前読んで、これはすごい!と思ったものが、すごい賞をとったことで、まったく関係ないのになにやら鼻が高い、というようなモードに浸っておりますw

 

AKBで誰かを推して、それが総選挙で上位に来たような感じでしょうか。

やったことないので知らんけどw

 

というわけで、今読んでいるのを中断して、先日よりカズオ・イシグロ・モードに入り、「日の名残り」と「わたしを離さないで」をkindleで再読。

 

むう。。。

 

 

やはりこれはなんだかすごいヤツだ。。。

 

「日の名残り」はまあ地味な小説です。

プロットだけ述べても全く興味をひかないようなものですが、このしみじみとした感じ。。。またいつか読み直すこと必然の名著です。ただ、何がそんなにいいのかと言われるとすごい困る。

 

「読書体験」とかいう言葉がありますが、まあ、その読書体験的に素晴らしい味わいだとしか言えない。また数年経って読むと何か言えるかもしれませんが、咀嚼しきれてません。ただ、自分の思ってることと他人の観点のズレみたいなのが中盤くらいからちょいちょいでてきて、ちょっと怖くなったりもした。すごく切ないし、でも前向きな希望もあるし、でも切ないし。

 

 

 

で、再読して思ったのですが、私個人は「わたしを離さないで」のほうがやっぱり強烈に感じられる。「日の名残り」はスルメイカ的ですね。「わたしを離さないで」はもっと直接的に美味しいというか。

 

 

なんでもこれ、綾瀬はるかさん主演でドラマになってたそうですね。

しかし断言したいです。

 

この物語の良さ、味わいは、絶対に本でなければならない、と。日本のドラマがどうこうではなくて。

 

前の記事にも書きましたが、「絶対原作の方がいいよね〜」とか言うのあんまり好きじゃないんですが、これに関しては例外。

 

それぞれの表現フォーマットに適したモノというのがあると思います。映画の方が圧倒的に面白い、漫画の方が絶対良いのもあるでしょう。「わたしを離さないで」は絶対文章。映像は映像の良さがあるだろうけども、この味わい深さは文章でなければならない、と思います。

 

 

さて、今回読み直してまたあまりに色々思うところがあったので、感想文を書きたくなりました。

が、これ難しい。。。とりとめなくなりそうですが、今日読み終わったばかりなので、読後の余韻の勢いで書いてみる。

 

 

「何についての話」なのかというプロットについては、読み始めれば、数ページですぐにぼんやりと察してしまうし、物語前半ですぐ明らかになるので、それ自体はネタバレではないと思いますが、まあ伏せましょう。

 

書いても害がないという意味で、背表紙とかにあるような紹介文を引用します。

 

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。

 

物語は、すべてキャシーの一人称で語られます。

客観的描写はゼロ。全てキャシーの主観のみ。

 

ヘールシャムという寄宿学校での生活の回想が主な舞台となるわけですが、キャシーの親友であるルースとのガールズトーク(笑)や、男友達であるトミーとの会話とかがめっちゃ多いです。

 

これが幼年期、、、というか自分の小学校や中学校時代をどうしても思い出してしまい、なんともいえない郷愁を感じます。エピソードそのものに近いものがあったわけでは決してないのですが。

 

親友ルース、トミー、周りの友人たちとの、成長に伴う人間関係や悩みなどは、こういうことあったよな(事実そのものではなく)としみじみきます。

 

あと、成長に伴って、少しずつわかってくる世界の構造というか、現実感。未来に対する憧れ、希望、畏れを思い出すような感覚があります。

 

それだけだと青春小説のようなのですが、しかし、この物語の世界における酷薄さが、こうしたいわば甘酸っぱい思い出を異様に切ないものに変貌させてしまいます。

 

 

あと、これを読むと、あれこれ考え込まずにはいられないような気分にもなります。

 

この話の「システム」にリアリティがあるかどうか、というようなことはあまり本質的ではないだろうと個人的には思います。これは他のシステムにいくらでも置き換えて読むこともできると思います。医療における実験動物でもいいし、経済効率追及の裏側にある搾取的な社会構造におきかえても良い。要は普遍的。

 

とにかく、「便利さ」や「進歩」の裏側にある「深く考えたくないもの」がこのシステムだと思う。そういうものに蓋をして生きている自分たちにも気付かされる。でもだからといって、どうすりゃいいのさ、というのもある。

 

ある意味何にでも置き換えられるこのシステムに対する様々な善意の取り組みは、やったほうがマシなのか。それともやらない方がいいものなのか?

 

 

これもよくわからない。

 

哲学的な問題で、答えがあるかもわからない。

 

政治と一緒で、現象そのものに対する対策を語る人と、その現象をおこす原因に対して対応しようとする人がいて、かつそれぞれ切り口違うので、まずまとまらない。

 

そもそも世の中不公平だし、このシステムは悲しいけどしょうがない、という現実主義的な人。

 

こうなってしまうと誰かが諦めることはできない。だから、地球一回滅びて文明なくなればいい、という原始回帰的な方向の意見もありそうw

 

あるいは、地球の資源問題はまず割り箸を使わなくすることから、みたいなアプローチの人もいるだろうし、いや、これは過渡期の問題であり、もっと科学技術を進めればこの辺、全部解決!という進歩主義的な考え方の人もいるでしょう。

 

 

さて、物語の登場人物は、まるでそういう友達が自分にもいた、と感じられるほどに生身を感じさせるのに、決定的な違和感もある。

 

あの強気なルースでさえ社会の構造に本当の本気では抗わないし、キャシーもそう。誰もが人生を所与のものとして受け入れている。ヘールシャム出身の生徒たちはきちんとした教育を受け、高い感受性をもって大人になっていくのに、どこか怖いほど無邪気で受容的です。そこに教育の洗脳性みたいなものを見ることもできる、、、いや、これはそういう話ではなくてこのシステムはメタファーだから、、、とすると、また先ほどまでの話に巻き戻ってしまってしまいますね。

 

もうすこし単純に、物語の世界の中だけでも、つらつら思うことは多い。

別に重要ってわけではなくて、単に思っただけですが、

 

キャシーは介護人をやめたいと自ら思ったのだろうか?トミーがキャシーの前で絵を描かなくなったのはどういう気持ちだったろうか。ヘールシャムの生徒はそれ以外の生徒よりも幸せだったろうか。ルースは結果を知りたかっただろうか。ルースは最後までキャシーが彼の介護人であることを望んだろうか。空想を進めるのを禁じたのはなぜ?「行くべきところに向かって出発した」というのは、諦めなのか。義務感なのか。それとも他の考え方がそもそもないからなのか。

 

とか、なんとなくですがいろいろ疑問に思う。現時点ではきっとこうだろう、という考えはありますが、また次に読み返したらどう思うかわからない。

 

 

一方で、ビジュアル的にも印象深かった。文章なのであくまで想像で人それぞれだと思いますが。とくに、後半にでてくるあるお店のシーンが、なんだかそこに行ったことがあるような気になりました。

 

何歳のころか覚えてないのですが、家族で軽井沢だかどこだかしりませんが、夏の旅行でいったフリマだかバザーみたいなのを思い出した。

 

自分の思い出は、その場所に人がたくさんいましたし、広さもなにもかも、小説世界のそのシーンとは似ても似つかないのですが、なんか匂いとでもいうべきものが共通してる気がしました。隅っこが薄暗くて、なにか見つかるんじゃないかというような高揚感、全貌は自分にはわからないから、一瞬何かに夢中になって親を見失って迷子になった不安な気持ちと、自分を見つけてくれて手を繋いでくれたことですっかり安心したこと。大人になって、いつの間にか知ってることが増えたことにいまさら気づいて感慨深いこと。などなどうまく言えませんが、そういう雑多な過去と現在の間で行ったり来たりするような、いわば心象風景みたいなものが、読んでると思い出されてきます。なんでしょうね、これ。不思議。

 

 

あと、初回はルースとキャシーの会話がちょっと冗長なような気がしてウザく感じたのですが、2回目は気にならなかったし、味わえた。

 

初回よりも2回目のほうがはるかに多くのことがわかった(気になる)ので、また何年かたったら読み直してみたい本です。

 

おそらく、読む人によって、なにをテーマと感じるか、どこが響くか結構違うんじゃないかなとも思います。その意味でもやはりこれはすごい小説だと思います。

 

 

ただ、読んで爽やかな気分になることは絶対にないので、精神的に参ってる時は読まない方がいいかもですw 

 

大人になってわざわざ暗い話など見たくないという気持ちは超ありますね。。。

 

「アベンジャーズ」とか「エクスペンダブルズ」とかで、ヒーローが敵をバッタバタやっつけるのを観るのが基本的に好きですけど、まあたまにはこういうのも良いです^^

 

次はまだ未読の「わたしたちが孤児だった頃」に行こうと思います。

 

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